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運命と自由(その61)…内面よりも外面

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 亀は食べ終わると、手で口を拭いていました。
「僕以外、誰も見ちゃいないよ。口なんか拭かなくてもいいじゃないか」
「でも外面は大事です」
 という声が聞こえたような…。
「そうだ、亀君、よく分かっている。外面は大事だ。内面を磨こうとする人間がいるが、あれは間違いだ」
「えっ、やっぱりそうなんですか」
 という声が聞こえたような…。
「アメリカにSATORIという単語を広めた鈴木大拙という人はな、次のように言っている」
 ここで僕は鈴木大拙の言葉をそのまま言いました。
「内面の知性の働きが加わると、本来混じりけの無い生理的な働きそのものが、自我中心的な関心でもって汚されることになる。これは無意識の中に雑物が入り込んできたわけである。するとこの無意識はじかに、まっすぐ意識の領域にはたらきかけなくなってくる。そこで従来は生理的に本能の働きに託されていたいっさいの行為が意図的な、知的な命令によって動くものとなってしまうことになる。キリスト教では人格という言葉を用い始めた。たとえば”聖なる人格”、”人間的人格”といった具合であって、このふたつがキリストにおいて調和せられるというふうに用いられる。しかしこれは相克といったものがつきまとう。この相克があるので不安が目に見える形でつきまとう。実際、この不安が人を追い立てる。すると人は中庸を失って熱狂的になったり暴力的になったりする。意識は衣装を思わせる。人々は他人のために衣装をつけて、自分を自分以外のものに見せようとする」
 亀は黙って聞いていました。
「だから内面よりも外面なんだ。外面こそが世界との接点になるからな。女性だってそうだ。性悪な女がモテたりするのは何面よりも外面が重要だからだ。いくら化粧をしてもいい、しかし内面を磨こうとすることは自分を自分以外のものに見せようとすることなんだ」
 亀は顔をゴシゴシし始めました。
 


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